私がとても大切にしている一冊
小山田咲子さんの『えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛している』
私はこれまで、この作品に幾度となく元気をもらい背中を押してもらいました。人生の節目、とりわけ何かを決断する際には必ずこの本を読み返したような気がします。
それだけ私にとって大切な一冊。ずっと側に置いておきたいと思っている本です。
この作品を一人でも多くの方に知ってほしいという個人的な思いから、この記事を書くことにしました。興味のある方はぜひ読んでほしいです。
Oyamada Sakiko’s Selection from her Blog
このように表紙に書かれているとおり、この作品は、著者・小山田咲子さん(福岡県出身)が2002年から2005年にかけて綴った個人ブログ(日記)を書籍化したものです。
2007年に海鳥社から発行されました。
(※ 2013年に新装版が出ています)
著者である小山田咲子さんの日々の生活のことや彼女が感じたこと、考えたことが日記形式で記されています。
冒頭でも書きましたが、私自身、辛いときや悩んでいるときにはいつもこの本を読み返しました。この本のもととなったブログを小山田咲子さんが記したのは彼女が20代前半のとき。まだ大学生という若さです。私が当時の彼女より随分と年を重ねてもなお、彼女が綴った文章から学ぶことは沢山あるし、勇気づけられます。
実は、私はこの本に出会う前から、著者である小山田咲子さんのことを知っていました(この点については後述します)。
だからこそ、この本を初めて見かけたとき、私はすぐに読みたいと思ったわけなのですが、小山田さんのことを知らない方であっても、この本を読み終える頃には彼女のファンになっていることと思います。
それほどに素晴らしい作品だと私は思っています。
飯塚で生まれ育った私が心を打たれた日記
この本は小山田咲子さんの魅力・才能が満載ですし、素敵なエピソードが沢山出てきます。一番好きなものを挙げるとなると困ってしまいますが、一つお気に入りを紹介したいと思います。
建物の背景に山がないのが悲しい。
小山田咲子『えいやっ! と飛び出すあの一瞬を愛してる』、海鳥社、2007年
これは、2003年6月11日の日記『処方箋』の中の一文です。飯塚市で育った著者が東京から地元を想う際に書かれているものです。
私はこれを読み、
飯塚という盆地で育った人間が外の世界に出た際、無意識下に持っているであろう感情、それを秀逸な表現で言語化されている
と思いました。
私が初めてこの本を読んだとき、ちょうど私自身も東京で生活していたときでした。外の景色を眺めてもどこか落ち着かなかった、そんな私の気持ちを美しい表現で説明してくれたような感覚になりました。そして、私が感じていた思いと同じことを小山田さんも感じていた、そう知って心がスッと軽くなったことを今でも鮮明に覚えています。
本の中では、上記の一文のあと
俺は智恵子か。あだたらやまか(誰かわかって)。
小山田咲子『えいやっ! と飛び出すあの一瞬を愛してる』、海鳥社、2007年
という一文が続きます。
当時の私はこれがどういう意味かわかりませんでした。すぐにインターネットで検索。そして、これが、高村光太郎の『智恵子抄』に出てくる「あどけない話」のことだと私は解釈しました。
智恵子は東京に空が無いといふ、
ほんとの空がみたいといふ。
(中略)
阿多多羅山の山の上に
毎日出てゐる青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
高村光太郎『智恵子抄』より
小山田咲子さんは“建物の背景に山がないのが悲しい”という自身の感情から、『智恵子抄』の智恵子を思い出し、おどけたようにそう綴ったのでしょう。
小山田さんが「あどけない話」をどう解釈していたのかは知り得ませんが、“俺は智恵子か。あだたらやまか(誰かわかって)。”の意味を理解すると、“建物の背景に山がないのが悲しい”という一文のトーンが少しばかり息づいたような感覚を覚えました。
彼女は上記の日記のほかにも、2004年5月4日の日記『御柱』で、“盆地”という四方を山に囲まれた中で生活することに対する、その複雑な感情を、実際にそこを飛び出した側の視点から明快に分析されています。
ここでは触れませんので、気になる方は是非、本書『えいやっ! と飛び出すあの一瞬を愛してる』を実際に手に取って確認してほしいと思います。
小山田咲子さんの才能に出会ってほしい
さて、先だって私は
“実は、私はこの本に出会う前から、著者である小山田咲子さんのことを知っていました”
と述べました。
というのも、私は彼女と同世代であり同じ高校を卒業したからです。
学年は違いますし、直接会話をする機会もありませんでしたが、彼女は高校でとても有名な方でした。才色兼備・文武両道を絵に描いたような方で、尚且つ人格的にも優れた方と当時から聞いていました。
そして、私は大人になり、この本『えいやっ!と飛び出すあの一瞬を愛している』と出会うのですが、この作品を読んで改めて、小山田咲子さんは本当にすごい方だったのだと認識しました。
本の序文「小山田咲子さんのこと」の中で、作家・演出家である鴻上尚史さんが読者に向けて次のように書かれています。
あなたが、小山田咲子さんを知っているのなら、この本で彼女の才能を改めて確認して下さい。
そして、小山田咲子さんのことを知らないのなら、この本でその才能と出会って下さい。
小山田咲子『えいやっ! と飛び出すあの一瞬を愛してる』、海鳥社、2007年
上記の言葉には同意しかありません。
小山田咲子さんのことを知っている方だけに読んでほしいわけではなく、彼女のことを知らない方にも是非読んでほしい一冊です。
おわりに
著者の小山田咲子さんは2005年9月に24歳という若さでこの世を去られました。
このことについてはこの記事で書くべきかどうか迷っていたため、最後に少しだけ触れる形としました。
彼女がご存命であれば素敵な作品がもっともっと世に出ていただろう、そう信じてやみません。